知財アナリストのひとりごと

特許情報分析・知財戦略をやさしく解説します

永久運動とか永久機関のIPC特許分類があるって聞いたんですが、この分類がついていると特許にならないんですか?

 特許出願すると、「あんた、拒絶ね」など

と、拒絶理由通知書とかが来るのが多い

ですよね。

 

 まあ、特許出願とかの拒絶理由通知と

対話をしている人はいないと思いますが

(どうやって対話すればいいのでしょう?)、

拒絶理由通知と対話をするというのは、まあ、

比喩なわけでして。

 

 ということで、特許庁で審査官や審判官を

されていた方が(その後、弁理士をされて

いましたが、弁理士会の弁理士ナビで検索

しても出て来ないので、現在はお亡くなり?

になっているのかもしれません)書いた書籍で

「拒絶理由通知との対話」というものがあるん

です。

(上記は絶版になっていて、現在市販されている

ものは、「新・拒絶理由通知との対話」という

ものです)

 

 この本は、さすが審査官、審判官だった

方が書いた本だなというもので、さらには、

文章が平易でわかりやすく、ウィットにとんで

いますので、知財関係者の方にはおすすめ

の一品(逸品?)です。

 

 値段は税込4,104円とお高いですが、

「新・拒絶理由通知との対話」は、審査を

する立場の審査官、審判官と、明細書を

書く立場の弁理士の両方の経験から、

どのように明細書等を書けばよいかを

説明していますので、買って損はしない

と思います。

(私のほうでは、その保証をするものでは

ありませんので、念のため)

 

 ということで、今回は、これはおもしろい

と私が思った箇所をちょっと取り上げて

みようと思います。

 

 たとえば、「ソフトウエア特許問題のルーツ」

とか、「モールス符号は発明か?」とか、

「タイプライターのキーは発明か?」とか、

「日本文字入力装置用鍵盤」とか、「バー

コードの特許」とかいろいろ考えさせられる

ものが多いのですが、まずは、最初に、

国際特許分類IPCに、「永久機関(と

いわれるもの、又は、と主張するもの)」の

分類項目があるんですってね。

 

 この前、IPC分類にない「0000」というのが

あることを書きましたが、永久運動のIPCが

あるのは知りませんでした。

 

oukajinsugawa.hatenadiary.jp

 

 永久機関って、特許の審査基準では、

 

第II部 第1章 産業上利用することができる発明

 

 というところで、

 

1.1 「発明」に該当しないものの類型

 

 として、

 

(3)自然法則に反するもの、熱力学第二法則などの

自然法則に反する手段(例:いわゆる「永久機関」)が

あるときは、請求項に係る発明は「発明」に該当しない。

(ちょっと抜粋編集しています)

 

 となっています。

 

 ということで、弁理士の受験勉強時代に、

永久機関は発明じゃないんだから特許に

ならないよ」、と勉強したような気がします。

 

 それでは、IPCのどこに永久機関の分類が

あるのかいな?と見てみると、ありました、

ありました。

 

 以下のようになっています。

 

・F03B17/04  静水圧推力を用いる永久運動といわれるもの

・F03G7/10  機械的動力での永久運動といわれるもの

・H02K53/00  永久運動を行なう回転電機であると主張するもの

・H02N11/00  電気的または磁気的手段により永久運動を得たと主張するもの

 

 ということなので、これらの論理和をとって

出願公開をプラピ(J-PlatPat)で検索してみると、

出ました3601件!!すんげー多いんですね。

 

 「審査基準に、永久機関は発明じゃないって

書いてあるんだから、特許化なんてされてねー

よなー」などと、つぶやきシローさん状態で

特許公報を検索してみると、「あーら、なんと

いうことでしょー」(ビフォーアフター

口真似で読んでください)、875件も登録

されてるんです。

 

 「え~~???」というところですよね。

 

 知財トリビアでしょう???

 

 たとえば、たとえば、ですが、最近の登録

(2015年3月6日)で特許5705440「発電装置、

発電システム、構造物、及び発電装置の設計

方法」というのがあり、付いている国際分類は

先ほどの「H02N11/00」そのもの一つだけなん

です。

 

 トリビアでしょー??(しつこいですね)

 

 「受験生時代に勉強したのは間違っていた

のか?」などとあわてふためく前に、ちょっと

調べてみよーではあーりませんか。

 

 「新・拒絶理由通知との対話」を読むと、

この項目に分類された出願でも、ほかの

副分類が付いているものは、永久機関

いうものの、他に何かの役にたつもの、

たとえば、置物、おもちゃ、変わったエンジン、

永久機関が存在しないことを見せるための

教習具や実験装置など、は、名称を間違え

なければ発明として成立するかもしれない、

と書かれています。

 

 それでも変ですよね、特許5705440は

永久機関の分類だけしかついていない

ですもんね。

(ほかの特許登録されたものを見ても、

永久機関の分類一つだけというのは結構

多いんです)

 

 それでは、審査ではなんと言われたのかいな?

ということで、拒絶理由通知書を覗いてみると、

これが2回出されているのですが、ひとことも、

「発明じゃねーじゃん、とんでもはっぷん!!」

(古いですね)などと書かれてないんです。

(正確には、特許法第29条第1項柱書や

36条4項1号での拒絶理由通知が打たれて

いないんですね。)

 

 この特許6705440の拒絶理由は、新規性の

29条1項3号と、進歩性の29条2項だけなんです。

(拒絶理由の通知が出されても、意見を言ったり、

書き方をちょっと変更したりして(いろいろ

制限がありますが)、審査官の方を納得

させることができれば、登録され得ます)

 

 ということで、さらにさらに、特許登録された

もので、発明の名称、要約、請求の範囲、

明細書などに、「これは「永久機関」や「永久

運動」なんです」などと断っているものが

あるかを調べると、そんなのないんですね。

 

 さすがに、特許化されていないものには

「永久運動」や「永久機関」という言葉が

入っているものは多く、「自然法則に反する

からこの装置は当業者が実施し得ないもの

である。」などという、36条4項1号の拒絶

理由が通知されています。

 

 日本では、特許分類は最初、FI分類を付与

するんですが、明細書等で「永久機関」や

「永久運動」と断っているものだけでなく、

私個人の考えですが、どうも、これに近い

構成などのものにも付与されているようで、

たとえ、永久機関関係のIPCに分類されて

いても、産業上の利用可能性があれば、

登録が可能なようです。

(日本でのIPCは、FI分類を基にして、

機械的に付与されてしまいます)

 

 そのうち特許庁の方にお会いしたら、

永久機関が登録されており、異議

あり!!」などと聞いてみましょう。

(聞き方は、ちょっと違いますね)

 

 ということで、標題への答えは、永久機関

そのもの(永久機関と主張するものですね)

には「オッケー」とは言いませんが、たとえ、

永久機関のIPC分類が付いているもので

あっても、産業上利用できるようなもので

あれば(つまりは、永久機関ではないって

ことですね(てゆーか、永久機関そのものは

ないわけでして))、特許化される可能性は

ありますよ、ということです。

 

 尚、「新・拒絶理由通知との対話」では、

永久機関ではないのに、永久機関と間違わ

れるような書き方があるので気を付けよう

と書いてあって、次のような例が挙げられて

います。

 

・典型的な永久機関

「発電機の出力でポンプを駆動し水を高所へ

上げ、その水を落下させて水力発電する

高能率発電方法」

 

永久機関でないもの

「『夜間に』発電機の出力でポンプを駆動し水を高所へ

上げ、『昼間に』その水を落下させて水力発電する

高能率発電方法」

 (夜間の余剰電力を使う揚水式発電方法です)

 

 ということで、「新・拒絶理由通知との対話」は

結構おもしろいので、そのうち第二弾を書きま

しょう。

 

 それではまた。

 

 

2015年10月31日追記:

 この前、特許庁の方にお会いした時に、

この分類について聞いてみた所、やはり、

間違えてこの分類を付与しているわけでは

なくて、このような技術に近いものにこの

分類を付与して、きちんとした発明で、

産業上利用でき、他の特許要件を満たして

いれば、特許査定をおこなっているそうです。

(すなわち、永久運動ではないんですね)