知財アナリストのひとりごと

特許情報分析・知財戦略をやさしく解説します

理論的には実施ができても現実的に明らかに実施できない発明は特許にならないって聞きましたが、この理由で拒絶理由が通知されることは、あるんですか?

 自然災害対策編その1です。

 

 最近、ゲリラ豪雨って多いですよね。

 

 今年は、この前の台風のように、冠水や

浸水被害が特に多いように感じます。

 

 環境問題のせいなのかよくわかりま

せんが、自然災害がますます深刻に

なって来ています。

 

 地震や火山の噴火、台風、津波、など

などで、日本列島、どこに住んでいても、

安全というところはないようです。

 

 「こんなに環境問題が深刻になって

いるんだから、特許庁の技術分類

でも、環境対策の技術ってあるんだ

ろうな?」と思いつつ調べてみると、

これがあるんですね。

 

 まあ、以前に書いた「オゾン層

減少に伴う紫外線の増加を防ぐ

ために、地球表面全体を紫外線

吸収プラスチックフイルムで覆う

方法」というのもあるわけですので、

当然といっちゃあ当然ですかね?

 

oukajinsugawa.hatenadiary.jp

 

 ということで、特許庁では、「重点

8分野の特許出願状況」ということで、

環境分野も調査をおこなっているんです。

 

https://www.jpo.go.jp/shiryou/toukei/1402-027.htm

 

 この調査をおこなっている環境分野の

IPCも公開されており、「それじゃあ、

おめえは、今回そのIPC分類を調べた

結果を書くのか?」というと、ちょっと、

違って、このIPCはめちゃくちゃ広い

分野となっていますので、フェイントを

かけて、A01G15/00「気象の状況に影響を

与える装置または方法(霧の消散一般

E01H13/00)」などを調べてみようと

いう企画です。

 (「Aセクションって、生活必需品

関係なのに、気象って、なんか違く

ねーか?」というのは置いておきま

しょう)

 

 早速検索してみると、特許公開は

60件、登録は20件と出てきました。

 

 植物栽培装置や植物栽培方法なども

入っていますので、これらを除くと

以下のようになりました。

 

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 ここで、特開平10-070941「地球の

温暖化防止方法」というのは、表の

ように登録されているんです。

(最初は個人名で出願されていたの

ですが、登録時には国立大学新潟

大学で登録されています。発明者は

新潟大学の齊藤義明先生で、新潟

大学では教授や工学部長、その後

新潟工業短期大学の学長を務められた

方です)

 

 どんな特許なのかというと、

目的は、「地球上の熱エネルギーを

積極的にバランスさせ、地球上の

温暖化を防止する方法を提供する」

ことで、構成としては、「比較的低い

雲12が地球10上の夜間16の熱放射を

阻害しているので、本発明の

第1の例は、その雲12よりも高く

パイプ13を設置し、このパイプ13の

下端部に空気取り入れ口を形成し、

パイプ13の上端部を大気に開放

することにより、地表の空気がパイプ

13内を上昇し、地表の熱が上空へ

放射する。 また、本発明の第2の

例は、パイプ13の上下端部を密閉し、

内部に気化しやすい液体21を封入

してヒートパイプを構成し、このヒート

パイプ13の下端部で地表の熱を吸収

して内部の液体21を気化し、この

気化した気体22をヒートパイプ13の

上端部まで上昇させて上空で熱放射

して再び液体21にしてヒートパイプ13

の下端部へ循環させることにより、

地表の熱を上空へ放射することにより、

地球の温暖化が防止される」んだ

そうです。

 

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 登録されるまでには、拒絶理由

通知書が発せられたりしたのですが、

手続補正書や意見書により、最終的

にはめでたく登録となっているのですが、

ここで発せられた拒絶理由が、まさに、

特許要件第29条第 1 項柱書に規定されて

いる「産業上利用することができる発明」

の中の、

「審査基準2.1.3 実際上、明らかに実施

できない発明

 理論的にはその発明を実施することは

可能であっても、その実施が実際上考え

られない場合は、「産業上利用することが

できる発明」に該当しない。」

というもので、拒絶理由通知は、

 

 「この出願の下記の請求項に係る発明は、

下記の点で特許法第29条第1項柱書に

規定する要件を満たしていないから、

特許を受けることができない。

       記

 パイプで運べる熱量は僅かであり、地球

温暖化を防止しようとする場合、多数の

パイプを建設する必要がある。

 仮に、理論的に発明が実施可能であると

しても、建設費、建設場所等のことから、

その実施が実際上考えられない。」と

なっているんです。

(ほかに、36条4項1号という理由も

通知されています)

 

 これに対し、補正をおこなって、「比較的

低い雲よりも数百m以上の高さで略垂直に

パイプを立てる」、及び、意見書にて、

風力発電の場合を考えても最初は、

誰もあんな小さなもので、地球の温暖化

防止に役立つものとは考えていなかった。

しかし、技術が進み、多数の風車が

立てられて、その効果が認識される

ようになった。(さらに理由が書かれて

いますが、私のほうで、抜粋編集して

います」等を訴えて、拒絶理由が

回避されたんです。

(言ったもん勝ち?(ちょっと違います))

 

 ということで、「明らかに実施できない

発明」として、拒絶理由は通知されるんですが、

審査官が、「現実的に実施できないじゃん!」と

言ったとしても、「いや、今実施できないかも

知れないけど、将来、科学や技術が進歩して、

実施できる可能性があるんだもの、特許に

してちょーだい」と言えば、登録される可能性も

あるんです。(要は、いかに審査官を納得

させられるかが問題なんですね)

 

 それはともかく、これだけ頑張ったのに、

この方法は、まだ実現されていないよう

ですが、実現するんでしょうか?

(出願が1996年8月ですので、あと1年

近く権利が続きますが、まだ権利の消滅は

ないようです)

 

 ちなみに、この齊藤先生、「電磁加湿

装置」や、「生体信号検出装置」などでも

特許を取得しており、特許出願では、

特開平6-299402「スポーツ用ズボン」、

目的は、「人間の限界能力を向上させる

ことの出来る構造を有するズボンを開発

することにより登山やマラソンをもっと

楽しいスポーツにしようとするスポーツ用

ズボンを提供すること」で、構成は、

「ズボンaのもも1付近の手の届く位置に

手の力をズボンaに加えることのできる

力作用部2を設け、このズボンaの裾3

付近に足4に直接若しくは足4に着用した

着用物5に連結する連結部6を設けた

ことを特徴とするスポーツ用ズボン。」

などもありますよ。

(作って販売したんでしょうか?)

 

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 ということで、表のように結構おもしろ

そうな出願がありますので、次回は、

ゲリラ豪雨軽減方法」などを見て

行きましょう。