知財アナリストのひとりごと

特許情報分析・知財戦略をやさしく解説します

直虎商標使えない?

www.sankeibiz.jp

 

 上のような記事が出ています。

 

 記事では、「特許庁では、名前の一部でも

「家康」のように大半の人が人物を特定できる

場合は商標の登録を控えている」となって

いますが、本当なんでしょうか?

 

 ということで、ちょっと調べてみましょう。

(ちょっとだけよ???)

 

 商標法での登録や不登録の要件はいろいろ

あるのですが、まあ一番近く関係するのは

以下となるでしょう。

 

・ 3条1項第4号

 ありふれた氏又は名称を普通に用いられる

方法で表示する標章のみからなる商標

 

・ 4条1項第8号

 他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称

若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名

若しくはこれらの著名な略称を含む商標

(その他人の承諾を得ているものを除く。)

 

 商標法には審査基準というものがあるの

ですが(最新版は改訂第12版)、まずは、

4条1項8号では、「他人とは、現存する

者とし、また外国人を含むものとする。」と

なっているだけで、「名称とは、人の名前

ですよー」とは書かれていないんです。

 

 さらに、他人の氏名(氏+名前)となって

いますので、名前だけならOKとなる可能性も

あるんです。

(著名な略称などの場合は別ですが)

 

 参考に以下をご覧ください。

 

https://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/syouhyou_kijun/17_4-1-8.pdf

 

 それでは、3条1項4号はどうでしょう?

 

 こちらは氏名とはなっていませんが、

「ありふれた氏」又は「名称」となっており、

名字や名称単体で、「ブー」となるのですが、

こちらのほうも、「名称とは人の名前のこと

です」とはなっていないんですね。

(こちらは現存している人には限定されて

いないかわりに、普通に用いられる方法と

限定されていますので、普通じゃないように

すれば登録の可能性がありますよ)

 

https://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/syouhyou_kijun/08_3-1-4.pdf

 

 ということで、最初に戻って、「家康」って

本当に登録されていないのか?というのを

調べてみましょう。

 

 そうすると「家康」を含む商標は、商願も

含め、26件もあるんです。(登録は24件)

 

 ほとんどのものは、以下のようになるの

ですが、登録4363214は標準文字「家康」と

なっており、そのものずばりで、指定商品は

「金属加工機械器具,木材用切削工具,合成

樹脂用切削工具」となっています。

 

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 ということは、登録4363214「家康」は

普通に用いられる方法で表示されていますので、

特許庁さん、名前は登録差し控えてない???

 

 さらに、「家康」は登録後、「有名だから、

ダメじゃん」などと言われず、登録10年後に、

存続期間の更新がされています。

 

 実は、家康さんを登録できないようにしよ

うよ、というのは、最近できた基準なので、

このほかにも、その前のもので、標準文字で、

「家光」という登録もありますが、新基準が

該当とされたものがあるのかどうかは、まだ、

よくわかりません、です、はい。

 

 尚、「徳川」という標準文字での商標登録も

あるのですが(登録者は公益財団法人徳川

ミュージアム」、「ありふれた氏ではないし、

他人の氏名でもないよねー」と判断されたの

でしょう。

 

 と、関係ない話を長々書いてきましたが、

詳細説明をし出すときりがないので、「直虎」

の話に行きましょう。

 

 一番上の記事では、「「直虎」を登録している

のは浜松市の会社のほか、長野県のみそ

醸造会社。」と書かれて」いますが、これらは、

登録5846107と登録5846295の標準文字

商標「直虎」のことで、この2つは、なるほど、

異議申立中となっています。

(下の一番右に、登録状況が書かれているの

ですが、切れてしまっています。)

 

 関係する登録は以下です。

(このほかに関係するもので12件の商願が

あります)

 

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 記事によると、「一つの地域が独占すべき

ではないと特許庁に異議を申し立てている。」

となっているのですが、商標法では、関係

しそうなものでは地域団体商標というものも

あるのですが、これとも異なるようで、この

異議申し立ての法的根拠はどのようなもの

なのでしょうね。

 

 ここで考えてみると、実は、「ほかでダメ

でも、公序良俗っていうのもあるんじゃね?」

という4条1項7号というのがあるんです。

 

 ここでは、「昔の有名な人の氏名とか、

登録されちゃったら、いろいろ問題あるよ

ねー」という大上段に構えたものなのですが、

これを根拠としているのかもしれませんね。

(「歴史上有名な人は、まずいよねー」と

いう審査便覧の項目は、最近できたもの

だったと思いますが、今までも、標準

文字で、「豊臣秀吉」、「武田信玄」、

上杉謙信」、「伊達政宗」、「真田幸村」、

黒田官兵衛」、「山本勘助」、「聖徳太子

などなど、登録されているものも沢山あり、

昔の基準で登録されたものは、そのまま登録

継続のはずですが、今後、そのままOKになる

のかどうかは、こちらのほうも、判例がない

ため、まだよくわかりません。)

 

 下は4条1項7号についてです。

 

http://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/syouhyou_kijun/16_4-1-7.pdf

 

http://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/syouhyoubin/42_107_04.pdf

 

 ということで、今後の動向を見守って

いきましょう。

 

 ところで、上の出願情報を見てみると、

「おんな城主直虎」の製作発表2015年

8月25日後に、雨後のタケノコのように、

出願がされています。

NHKさんは、さすがにその前日に出願を

すませています)

 

 知財戦略を考える場合、これは重要で、

トピックスと商標を関連付けて商標出願する

人は多く、人気が出てから出願するのでは

なく、自分のところのもので、取られて困る

ような商標は、前もって出願をする必要が

あるでしょう。

(あとで、「営利目的で出願されたもの

だから、ダメだよねー」などとして、もし

取り消すことができたとしても、余計な

労力、出費が発生しますので)

 

 ちなみに、井伊直虎の「井伊」については、

以下のように、中国の、「北京應人網絡科技

有限公司」から、2016年3月29日に出願

されており、登録5889665となっています。

 

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 商標法には、43条の2というところで、

「商標掲載公報発行の日から2月以内

だったら、異議申し立てしていいぞ!」と

いう制度があるのですが、公報発行日が

2016年11月22日でしたので、現在、

異議申立のための公告というのがされて

います。

 

 ただし、「井伊」という氏は、「あり

ふれてないよね」と判断されたのだろうし、

普通に用いられる方法での表示でもない

ため、こちらも、今後の動向を見守って

いきまっしょい!