知財アナリストのひとりごと

特許情報分析・知財戦略をやさしく解説します

アツボウグ??

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 皆様、林撚糸株式会社というのをご存じで

 しょうか? この会社は和歌山にあり、昭和

 7年に林染工(株)として創業し、昭和23年に

 現在の名前に変わりました。

  

http://atsubougu.jp/aboutus/

  

 従業員は10人で、資本金1000万円と 

小さな会社です。事業内容は、撚糸の加工や 

製造、衣料用・精密機械部品やフィルター 

などの撚糸製造販売です。

  

 この企業は、昨年の経産省「がんばる中小 

企業・小規模事業者300社」にも選ばれている 

そうです。

  

 この企業の記事が、「和歌山発、元気印」と 

して、フジサンケイビジネスアイ227日号に 

紹介されていました。

 

 記事によると、溶接作業で飛び散る1200度 

の火玉を防ぎながら、通気性や柔らかさを保持し、 

繰り返し洗濯もできて清潔に仕事ができる、 

「アツボウグ」という手袋を開発したとなって 

います。

  

 製品開発には、お客様の声というのが非常に 

重要ですが(VOCと言います:Voice Of Customer)、 

この会社は、溶接職人らへアンケートを何度も 

おこない、それぞれの職人からはすべて違う 

答えが返ってきており、これらを総合して 

完成したそうです。(一部、記事の内容を要約 

しています)

 

 しかし、いいものを作っても町工場の悲しさで、 

販売が弱いので、品質の確かさをデータで 

証明し、大手繊維会社の販売支援を受け、 

手袋として初の日本防災協会の認定を受ける 

ことができたそうです。

  

 記事では工業用しか紹介されていませんが、 

HPでは山岳手袋も紹介されています。 

 

 撚糸というのが何かというと、1本では弱い 

糸を複数本撚り合わせ、強度と太さを揃えた 

糸のことだそうです。

  

 近年途上国の進出により国内企業は苦戦を 

強いられていますが、社長さんの話では、組み 

合わせや撚り方次第で可能性は無限大で、 

日本はハイテク素材の宝庫なので、途上国 

にはない糸を作ることができるとのことでした。

 

 この特許は、日本のほか、米国、中国、 

欧州などで権利化しているとのことで、 

大正解でしょう。

  

 ということで、この林撚糸さんの国内出願は 

どのようになっているかを見てみると、特許 

出願は以下のようになっており、メインは糸の 

撚り方になっていて、手袋等の製品でも漏れ 

なく権利化をおこなっています。

 

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 さらに一番新しく権利化をしたものを見てみると、 

こちらのほうは、紙らしさを保てるように織れて

編める糸の発明で、紙は綿の13倍の吸収性が 

あり、タオル、デニム、シャツ地などさまざまな

展開が期待されるそうです。

  

 こちらのほうも商標登録されており、「和紙」 

とテキスタイル(繊維)をくっつけた、「ワシテックス」 

という商標になっています。

  

 それでは、手袋のほうの意匠、商標を見てみると、 

登録商標が「ATSUBOUGU\アツボウグ」で、 

冒頭のように意匠登録もされていました。

 

 こちらの商標も、「熱い」と「防具」を引っかけて

いるのでしょう。

 

 林撚糸さんは、ピンポイントで特許を取得して 

おり、意匠、商標で脇を固め、さらには製法の 

方はノウハウで守るという、実にうまい戦略を 

取っており、小さな企業でも知財戦略をうまく 

使うことにより、売り上げを伸ばすことができる 

お手本ではないでしょうか。