知財アナリストのひとりごと

特許情報分析・知財戦略をやさしく解説します

知られざる特許の旅 第3回  亀の子束子

 特許と実用新案の違いはなーんだ?

とか説明するときに、よく、「たわし

のようなものが実用新案なんです」、

などと説明されますが、めちゃくちゃ

言葉が省略された説明なわけでして。

 

 まあ、イメージ的には合っている

ような気もしますが。

 

 ということで、今日は、本格的に、

実用新案と特許の違いの説明か?と

いうところですが、ちょっと違うんです。

 

 7月2日って「たわしの日」なんで

すってね。

 

 知ってました?

 

 知らなかったのは、私だけ?

 

 なんか、大正4年の7月2日に、

亀の子束子が特許を交付されたので、

この日が「たわしの日」になったんだ

そうです。

 

http://kamenoko-tawashi.co.jp/post/2014-06-20-2172.html

 

 一体誰が決めたんでしょうね?

 

 しかし、不思議ですね。

 

 亀の子束子は実用新案の説明で

使われるのに、なんで特許なんだ?と

いうところなのですが、上のURLを

見ると、最初、明治時代に実用新案の

取得手続きをして、実用新案の期間

満了を迎えることになったのですが、

「特許局長抗告審判長米田英夫氏から、

特許の条件に的中したものである」と

されて、新たに特許交付を受ける

ことができた、と書かれています。

 

 「えーっ」ていうところですよね。

 

 特許局長自らが、特別にお目こぼしを

してくれる、そんないい時代だったのか?

というところなのですが、それはホントーか?

というのを調べてみましょう。

 

 ということで、まずは、たわしの登録実用

新案と、登録特許を調べてみましょう。

 

 特許番号は、上のURLでわかるとして、

実用新案をWEBでいろいろ調べても、

明治41年に実用新案を取得としか出て

いないので、困りましたね。

 

 ということで、またもや、出ていない

のなら自分で載っけてしまおうという

ことで、「亀の子束子、出てこいやー」

と、高田延彦さん状態で叫んでみると、

「すんません、たわし(わたし?)なん

です」というところで、以下のように

出てきました。

 

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 出願は明治41年1月11日、登録は

同じ年の2月28日で、西尾商店創設者の

西尾さんから出ています。

 

 ちなみに、西尾商店の正式名称は、

「株式会社亀の子束子西尾商店」、創業

明治40年(1907年)、本社東京、

資本金3,000万円、主要製品は、

キッチン商品、リビング商品、屋外商品、

ヘルス商品、グッズ外商品などだそう

ですよ。

 

 特許のほうは、1ページ目と3ページ

目を貼り付けてみますが、出願が大正

2年の12月3日、登録が大正4年の7月2日で、

実用新案とまったくおんなじ内容ですよね。

 

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 「えーっ、考案と発明がおんなじなのに、

特許局長がそんなズルしちゃったりして

いいのかよー?」というところですよね。

 

 というところなのですが、実は、これ

にはふかーい深いわけがあるんです。

(いつものように、そんなに深い訳、

ではないわけでして)

 

 それでは、当時の特許法を見てみる

ことに致しましょう。

 

 この大正2年の頃は、もうすでに、専売

特許条例から特許法に名前が変わって

いるのですが、大正2年の直近の、明治

42年改正法を見てみましょう。

 

 そうすると、5条が以下のようになって

いるんです。(1号は関係ないので省略

しています)

 

第五条 発明カ左ノ各号ノ一ニ該当スルモ

之ヲ新規ナルモノト看做ス

二 同一発明ニ関スル特許出願中若ハ実用

新案登録出願中又ハ其ノ特許権若ハ実用

新案権ノ存続中其ノ発明カ前条各号ノ一ニ該

当スルニ至リタルトキ

 

 ということで、前条(4条)は、新規性が

規定されており、

 

第四条 本法ニ於テ発明ノ新規ト称スルハ

左ノ各号ニ該当セサルモノヲ謂フ

一 特許出願前帝国内ニ於テ公然知ラレ

又ハ公然用ヰラレタルモノ

二 特許出願前容易ニ応用スルコトヲ得ヘキ

程度ニ於テ帝国内ニ頒布セラレタル刊行物ニ

記載セラレタルモノ

 

 というわけなのですが、つまりは、実用

新案権が存続していれば、同一発明(考案)が

あったとしても、新規性は問われない、と

いう、すんごい規定なんです。

特許権と書いてあるので、じゃあ、また

おんなじ発明を出願してもいいのか?と

いうことになって、「いつまでも登録できる

じゃん!!」ということになりますが、

さすがにそれは無理なようで)

 

 この規定は、その前の明治35年改正法

以前と、大正10年改正法以後にはなく、

明治42年改正法(明治42年11月から

大正10年12月まで)だけにあった規定

なんです。

 

 「知られざる特許」の旅でしょう?

 

 ちなみに、実用新案が始まったのは、

明治38年の7月1日からで、「束子」の実用

新案は、この最初の法律が適用されており、

 

第十条 実用新案権ノ存続期間ハ三箇年トス

2 前項ノ期間ハ三箇年間之ヲ延長スルコトヲ得

 

 ということで、存続期間は3年で、3年間の

延長も可能という法律だったために、特許

出願時にはまだ実用新案の権利が存続

していたわけで、ズルしたわけではないん

ですね。

 

 当時の特許権の存続期間は登録から15年で、

場合によっては、3年以上10年まで延長可能で、

つまりは、実用新案権の存続期間+特許権

存続期間、という長ーい存続期間を得ることが

できたんです。

 

 まあ、さすがに、「それは、ねーだろー」と

いうことで、大正10年改正で、この特許法の、

すんごい規定はなくなってしまいましたが。

(現在の特許法では、「実用新案登録に

基づく特許出願」という、ちょっと似ている?

46条の2という制度があって、ある一定の場合

には、実用新案登録がされていても、同じ

発明で特許出願が可能なのですが、こちらの

ほうは、特許登録がされても、その特許出願は、

実用新案登録出願の時にしたものとみなされ、

権利期間がプラスアルファになることは

ありませんよ)

 

 ちなみに、当時、他の方から、下のような

実用新案も登録されています。

 

 今は、試験管などの洗浄用で、よく見かける

ものですね。

 

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 ということで、次回は専売特許条例

黎明期に戻って、当時は、どんな技術分野の

登録が多かったのかを調べてみましょう。

 

 それでは、また。

 

 

2017年5月27日追記:

 米田英夫の姉の孫さん、大変貴重な情報

まことにありがとうございます。

 

 調べると、「発明考案を為すには/発明と

発見/発明の経路と変遷/特許品と普通商品/

内外人の工業所有権/特許と実用新案/公告の

意義/発明特許の実例/明細書訂正と特許権

分割/出願手続/審判請求/附録(出願手数料・

特許料ほか)等の昭和初期の、大変有用な

情報が載っていることがわかり、関係する

部分のPDFをご提供いただけるという大変

ありがたいお申し出でしたが、書籍全体を

読んでみたいと思い、早速書籍の購入手続

きを致しました。

 

 今後も何か情報がありましたらよろしく

お願いいたします。

 

 そのうち、書籍情報からの特許の歴史も

書いてみたいと思いますので、まずは、

御礼まで。