知財アナリストのひとりごと

特許情報分析・知財戦略をやさしく解説します

カイコシルクで人工血管

 この前、NHKで、バイオミメティクス

(生物を模倣する技術ですね)の話を

していました。

 

 このブログでも、いろいろバイオミメ

ティクス技術の話をしていますが、カイコ

って、繭を作るときって、一本の糸だけで

繭を作り上げるんだそうです。

 

 カイコの繭を伸ばすと1200メートル

以上にもなる一本の糸だそうで、すん

ごいもんですね。

 

 カイコはこの糸で繭を作り、繭の中で

サナギとなり成虫になるわけですが、この

成虫になる過程では、生涯で最も無防備

になるため、天敵や風雨から身を守る強力

なシェルターが必要になり、このため、

カイコの糸の強さは、鉄に匹敵する強さ

が必要だそうで。

 

 カイコの糸って、口から吐き出すのでは

なくって、口の下に、糸を吐き出す第二の

口があって、そこから1分間に60センチの

ペースで、体の中から糸を引っ張り出すの

だそうですが、カイコの体内では糸では

なくて液体なんだそうで、ここにヒモのような

ものが浮いて来て、液体とともにそのヒモが

引っ張られて伸び、ヒモについた触手が

他の触手と網の目のようにくっつくことにより

細い糸が引っ張られたり、圧縮されたりする

うちに太い糸になり、鉄にも負けない強さと

なるんだそうで。

 

 「モスラ」恐るべし!!!

(違うっちゅうの!!などと、一人突っ込みを

しながら書いているわけでして)

 

 この強い糸で、シルクの人工血管を作って

いるのが東京農工大学の朝倉哲郎先生

なんだそうです。

 

 この朝倉先生、30年もの間、シルクの強さを

研究しており、現在はカイコの糸で作った人工

血管を研究しているんです。

(と、テレビで言っていました)

 

 人間の血管には強い圧力がかかりますが、

この強いシルクの人工血管はそれに耐える

強さがあるそうで、さらに、カイコの糸は

蛋白質でできていますので、この人工血管が、

徐々に溶けて行き、体内組織と置き換わって

本物の血管が再生されるんだそうです。

 

 ということで、朝倉先生の特許から、どんな

技術なのか見てみましょう。

 

 検索結果は総数39件でしたが、まず、

出願人を見てみると、東京農工大を除いて、

以下のようなところと研究をしているんです。

 

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 スタンレー電気さんと何の研究をして

たんだ?というと、バイオセンサ装置の

研究でしたね。

 

 直近の20件を見ると以下のようになって

おり、磁気共鳴装置などもあるため、違う人

かと思い、確認してみたら、同一人物でした。

 

f:id:oukajinsugawa:20160113124213j:plain

 

 一番最近の、特許5704665号は以下の

ような技術だそうですよ。

 

「近年、動脈硬化症など血管疾患の増加に

伴い人工血管の重要性は確実に高まって

いますが、人工血管においては、(1)安全性

(急性毒性、皮内反応試験、溶血性試験、

発熱性物質試験、皮膚感作性試験、

細胞毒性など)、(2)機能性(伸縮性、

縫合し易さ、柔軟性、切断端のほつれ

難さ、人工血管壁からの出血し難さ)、

(3)耐久性などが要求され、体内に

移植する部位によって様々な種類が

必要とされる。」んだそうで。

 

「人工血管のうち大口径のものは既に

実用化され臨床使用に耐えられるものと

なっていますが、口径5mm以下の小口径

人工血管は、ポリエチレンテレフタレート

PTFEなど代表的な人工素材の生体

不適合性による血管内膜の肥厚や血栓

形成による閉塞が原因で、未だ実用化

されるに至っておらず、そのため、現行では、

膝関節末梢などへのバイパス術は自家

静脈移植が行われており、患者への負担が

大きいこと、適合する血管を持たず自家

静脈移植を行うことができない患者が

多数いるなど問題は多く、近年、患者の

高齢化や糖尿病の増加に伴い、細小

血管の再生治療は増加し、特に末梢血管

など小口径の血管に利用できる抗血栓

のある人工血管の開発が以前から強く

望まれていた。」んです。

 

「一方、絹糸は、高い生体親和性を有して

おり、細くて強く適度な弾性と柔軟性を持ち、

糸の滑りがよく、結びやすくほつれ難い

特性を持っていることから、手術用の

縫合糸として用いられる天然繊維であり、

これまでに絹の高い生体適合性を利用

した様々な再生絹材料が開発され、医療、

生化学、食品、化粧料など幅広い分野

での利用が期待されていおり、特に、再生

医療のための材料として注目されている。」

んです。

 

「再生絹材料の絹を用いた人工血管

作製の試みとしては、組紐作製原理に

より編み込む動作を組み合わせて巻かれ、

且つ繭糸相互や混繊維相互が繭糸表面に

保有されているセリシンにより膠着されて

なる繭糸構造物が知られ、この繭糸構造物は

繭糸相互がセリリンで膠着されることで、

実用に耐え得る引っ張り強度になっているが、

セリシンはアレルギー反応を引き起こす

可能性が高いため、そのリスクを低減する

観点からセリシンを除去することが望ましく、

繭糸構造物は柔軟性・弾力性が十分では

なく、切断端もほつれ易いため、生体適合性と

術時の要求特性など絹本来の特性を

保持しつつもより機能性に優れた人工血管が

要望されていた。」んです。

 

 ということで、朝倉先生、

「絹フィブロイン溶解液からエレクトロ

スピニング法により形成される絹ナノ

ファイバーを用いれば、柔軟で弾力の

ある管状構造物が得られることを見出し、

エレクトロスピニング法は電場内で

ナノファイバーを発生させて電極上に

収集させ、この時、回転電極上の

周囲にナノファイバーを収集させれば

ナノファイバーの管状構成物が得られるが、

絹フィブロイン溶解液から形成される

絹ナノファイバーには粘性があり、

金属への接着性が良いため回転

電極上に強固に密着していまい、

剥離し難いことが判明し、剥離時に

破れ・解れ等が発生すると、特に

小口径人工血管として使用する際、

血液の漏出や血栓形成が懸念される

ため、更に検討し、絹ナノファイバーを

収集させる回転電極に樹脂製チューブを

被せて用い、破れ・解れ等を生じること

なく容易に剥離でき、且つ電場に影響を

与えないことを見出したり、コーティング材

なども研究し」発明に至ったんです。

 

 磁気共鳴装置は、このような用途

だったんですね。

 

 ということですので、さらに研究を加速

していただいて、ぼけぼけ王花陣老人の

抹消血管に使えるようなものを是非お願い

したいものです。