知財アナリストのひとりごと

特許情報分析・知財戦略をやさしく解説します

二十世紀の予言 その4 におい検知の細胞センサー

 この前、ちょっと、アイザックアシモフについて

書きました。

 

 このアシモフさん(発音はアジモフに近い

そうですが)の科学エッセイで、「THE DANGERS

OF INTELLIGENCE AND OTHER SCIENCE

ESSAYS」というのがあるのですが、これは

ハヤカワ文庫NFシリーズでも「真空の海

に帆をあげて」という題名で翻訳出版されて

います。(もう絶版と思います)

 

 ということで、今回はこの文庫本から

ちょっと書いてみましょう。

 

 この科学エッセイは、1981年から1985年

にかけて雑誌に掲載されたもので、72の

ショートエッセイとして収載されています。

(つまりは30年以上前のエッセイですね)

 

 まずは、この中の「DNAの指紋」では、

「将来、DNAが遺伝病や罹患しやすい体質

について重要な技術を提供するだろうし、

新生児について病院での取り違えがおこった

かどうかを判定したり、実父確認の訴訟を

解決したり、法廷上の問題で判決を下したり

するのに、厳密な手段を提供するかもしれ

ないし、刑事たちにとっては、なんという

恩恵だろう」と述べています。

 

 以下のWEBでは1984年に「ヒト特異的

DNA指紋法」という論文が発表されたとなって

おり、その後DNA判定方法が進歩してきたので

しょうが、アシモフさんの予言は当たりましたね。

 

http://www.e-kantei.org/DNA/000.htm

 

 「熱をあるべき場所に」では、部屋全体を

暖めるのは非常に効率が悪いので、マイクロ波

よって人間を暖めてはどうだろうと言っています。

 

 アシモフさんは、電子レンジに使われる

マイクロ波は、波長が5インチまたはそれ以上の

ものを使用して、大きな集中度で照射している

ので、皮膚どころか全身に浸透してしまうが、

波長1インチ強のものを強度をコントロールして

使えば、部屋の壁や空気には容易に吸収されず、

人間の皮膚に吸収されるだけなので、暖かく

感じるのではないかと言っていますが、

これは達成できていませんね。

 

 「拾い放題の金属」では、海底のところ

どころに、手に入れば助かるような鉱脈が

眠っており、拾い放題だろうが、誰の権利に

帰属するのだろう?と言っていますが、今

まさに、どこかの国が、覇権を広げようと

して問題になっており、アシモフさん、

予言が当たりました。

(あとがきで、これは1982年に書かれて、

当時は進展が可能に思われたが、いまだに

(1986年です)、話し合いは停滞していると

書かれています)

 

 「二度と行方不明にならない」というところ

では、コミュニケーションについては、多くの

異なる周波数が使えるようになるので、

まるで、今日の電話番号のように、各人に

専用の特別な周波数を割り当てることができ、

この周波数を探ることにより子供がどこに

いるかがわかるようになるだろうと予測して

いますが、まあ、パケット通信や、GPSという

異なる方法となりましたが、大体当たっている

でしょう。

(プライバシーや、政府の監視下に置かれる

危険性にも言及していますので、今、まさに

問題になっていますね)

 

 同じような「決して迷子にならない」という

ところでは、将来は地図を「カセットテープ」に

入れて、それを車のテレビスクリーンに映し出し、

車の位置は常にスクリーンの中央に示され、

進むに連れて、地図が動き回転し、目的地には

他の印がついており、目的地に行くのにどの

ルートを取らねばならないかなどをいつでも

見ることができる、となっていて、今の

「ナビ」そのものですね。

 

 ということで、いろいろ書いてきましたが、

今日の本題です。

 

 「第三の感覚」では、視覚、聴覚の次の、

嗅覚が取り上げられています。

 

 嗅覚は、わずかな分子でも感知するので、

これは、将来、半導体などで、一種類の匂い

分子とだけ反応し、電気信号として取り出せる

ようになり、煙やガス漏れ、各種の汚染物質の

検出に使ったり、ロボットに組み込むことにより、

料理の過程を匂いでかぎ分けながら、お料理

ロボットとか、子供が行方不明になった場合に、

ロボットが残された特徴ある分子の嗅跡によって

子供を探し出すことができるようになると書いて

います。

 

 ということで、下の、JSTnews2015年5月号に

よると、今、まさにこのような未来に近づいて

来ているんです。

 

http://www.jst.go.jp/pr/jst-news/backnumber1505.html

 

 この記事によると、人間の鼻が匂いを感じる

仕組みは、匂い受容体というのが鼻腔上部の

嗅細胞の繊毛にあり、匂い物質は気体状に

なって、空気と一緒に吸い込まれ、鼻の粘膜の

粘液に溶けて、繊毛にある受容体と結合する

ことにより科学的変化が起こり、それが電気信号に

変換されて嗅神経から大脳へ伝達され、匂いと

して認識されるんだそうです。

 

 ということで、記事では、東大の竹内先生が、

鼻の粘膜を模倣した匂いを検知する細胞センサー

の開発に成功したというのが取り上げられて

います。

 

 詳細は、記事を読んでいただくとして、簡単に

紹介すると、直径1ミリメートルの仕切りを入れた

小さな部屋を持つハイドロゲルマイクロチェンバー

というのを作製し、特定の匂い分子に反応する

匂い受容体を持つ細胞の球状の塊「スフェロイド」を

その小さな部屋の一つづつに入れるんだそうです。

 

 特定の匂い物質がこのスフェロイド内の匂い受容

体に結合すると、電気信号が発生して増幅され、

結合されている検出器で検出されるというものです。

 

 プラピ(J-PlatPat)さんで、竹内先生の特許

出願を調べると、49件出ており、直近のもの

では、特開2015-083933「パターンの製造方法」

として、小さな部屋の作り方の製法が出願されて

います。

(詳細な説明では、「物理センサでは得られ難い

生体情報で、 採取が容易で、感染リスクが無く、

侵襲及び精神的ストレスを伴わない生体サンプル

の例として、生体の皮膚表面から放出される

ガス(皮膚ガス)又は呼気等のような、生体に

由来するガス(生体ガス)があり、この生体ガスは、

血液等の液体サンプルと同様に、個人差を

反映した生体情報が得られる生体サンプル

なので、生体ガス中の特定成分の有無や

その濃度を測定することで、健康状態に関する

情報が得られる。

 

 そして、生体ガスの中でも皮膚ガスの捕集・

測定は、呼気を測定装置へ吹きかけるといった

能動的な動作が不要となる利点がある。

 

 また、皮膚ガスの組成及び放出量は被験者が

自らの意思で変更したりコントロールしたりする

ことができない、という特徴を有する。

 

 しかし、皮膚表面から、生体の状態や環境の

変化に応じて、種々のガスを放出し、その濃度は

時々刻々と変化する。

 

 したがって、生体の特定の部位の皮膚表面から

放出された皮膚ガスを、被験者の意識に関わりなく

経時的に測定することにより、きめ細かい健康管理を

実現できると期待され、皮膚ガスの測定装置を、

腕時計に代表されるような皮膚に接した状態で

身につけるタイプのデバイスに搭載することが

できれば、そのデバイスを身につけているだけで

常時測定・無意識測定による健康管理が実現

できるであろう」

 

 と書かれています。

(長いので、抜粋編集しています))

 

 竹内先生、ウエアラブルな健康チェックセンサーを

考えているんですね。

 

 ちなみに、JSTnewsによると、13種類の

哺乳類の匂い受容体の遺伝子を解析したところ、

アフリカゾウの匂い受容体は犬の2倍以上で、

多い順番で行くと、アフリカゾウ、ラット、ウシ、

マウス、ウマ、イヌ、モルモット、ウサギの順番で、

ヒトも含めた霊長類は犬の半分以下なんだそう

ですよ。

(モルモットやウサギなどは、しょっちゅう鼻を

ピクピクさせていますもんね)

 

 この前話題になった、がんのにおいをかぎ

分けるという線虫さんは、イヌと同じ程度の

嗅覚受容体数とのことですので、アフリカゾウ

君やラット君、マウス君を仕込んで、においを

かぎ分けさせたほうがいいかもしれませんね???