知財アナリストのひとりごと

特許情報分析・知財戦略をやさしく解説します

Ig Nobel Prizes その8 スピーチジャマー

 お茶大(当時)の塚田浩二さんと、産総研

(当時)の栗原一貴さんは、「SpeechJammer:

A System Utilizing Artificial Speech Disturbance

with Delayed Auditory Feedback」という論文

により、2012年のイグ・ノーベル音響学賞を

受賞しました。

 

 お二人のウエブサイトは以下となりますが、

「ハングルガングル」とか、「食べテルミン」、

「テロに備えてSNSプロフィール画像

万国旗のアニメーションにするサービス」、

「顔認識技術を用いてNASAの火星/月

表面衛星写真から人面岩を自動探索」、

等々、 いろいろ個性的な?研究をされて

いるようです。

 

http://mobiquitous.com/

 

http://www.unryu.org/

 

 受賞対象となった「Speech Jammer」は

受賞当時、結構話題になりましたが、これが

実用化されたという話は聞きませんので、

実用化されなかったのでしょうか?

 

 論文は、日本語でも出されていますので、

私のほうで読んで、概要を書いてみましょう。

(日本語論文のほうは、「Speech Jammer:

聴覚遅延フィードバックを利用した発話阻害の

応用システム」となっています。

 

 ざっくり言いますと、相手の話した言葉を

ほんの少し遅れて聞かせることで、その人の

発話を妨害する装置だそうですが、jammer

というのは、妨害するものという意味があり

ますので、日本語の「邪魔」と引っかけており、

英語でも、我々日本人は、ピンと来ますね。

 

 最初のSummaryでは、「一般に発話に対し,

数百ミリ秒程度の遅延を加えて話者の聴覚に

音声をフィードバックすると,話者は正常な

発話が阻害されることが知られている。」と

なっており、「我々は指向性マイクと指向性

スピーカーを組み合わせることで,外部の離れ

た場所から特定の話者の発話を阻害するシス

テムを 試作し、これを応用し,会話のマナーと

ルールの制御,プレゼンテーショントレーニング

などに活用することを検討する。」んだそうです。

 

  ここで、「対話による紛争の平和的解決が

重要視されている現代社会において,音声の

持つ負の特徴による」以下の問題があるそう

です。

 

(1) 議論における「言った者勝ち」問題

(2)会話が不適切である場における会話を止め

  にくい問題

(3) プレゼンテーションにスキルが必要な問題

 

 まあ、国のお偉い?先生方が論戦を戦わ

している国会でも、 上の問題は顕著ですね。

 

 ということで、筆者らは、研究として

以下をおこなっています。

 

・ 聴覚遅延フィードバック

・ 議論支援

 

 上のために、以下をおこなったそうです。

  1. 会議室における発言権の制御
  2. 携帯発話阻害銃
  3. 発話者自身による発表練習支援

 

 SpeechJammerシステムは、上の2の

「携帯発話阻害銃」だそうで、プロトタイプ

1と2を貼り付けさせてもらうと以下だそう

です。

(WISS 2010 SpeechJammer:聴覚遅延

フィードバックを利用した発話阻害の応用

システム SpeechJammer:A System Utilizing

Artificial Speech Disturbance with Delayed

Auditory Feedback 栗原一貴 塚田浩二)

 

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 実験結果は、「我々が行ったインフォーマルな

実験において,発話の種類として「ニュース読み

上げ」と「原稿のな い自由会話」を扱ったところ,

ニュース原稿を読み上げるタスクの方が,原稿の

ない自由会話タスクよ りも発話阻害効果が高い

傾向が見出された.」そうで、「このような発話の

種類によって発話阻害効果がどの程度影響を

受けるのかを調べる必要がある.」んだそうです。

 

  最後に、「未来ビジョン」というのが書かれて

おり、 「本研究を通じて世界平和の実現を希求

して」おり、「世界平和に最も必要なのは,人と

人との対話で」、「対話から諸問題の解決方法が

生み出され,またあらゆる相互理解が構築される.」

が、「現状では,対話はしばしば万人に対等では

なく,「声が大きいものが勝つ」と いった先時代

的な戦略が政治や外交のような世界のリーダー

たちの対話においても未だ 用いられていることは

悲しむべきことである.」と書かれており、

うーん、ごもっとも。

 

 「そこで,本論文で論じたSpeechJammerが

拳銃と同程度に小型化・高機能化され,全ての

人がこれを所持する近未来を想像するとどうだ

ろう.発話を強制的に阻害するというのはある

種の暴力であるから,これは紛れもなく一種の

兵器である.しかし従来の兵器とは異なり,」

「対峙する侍が互いに刀に手をかけた時,

または対峙するガンマンが互いに ホルスター

に手をかけた時,片方でもその力を行使して

しまえば,その後には対話の余地のない殺戮が

待っているのみである」が、「しかし

SpeechJammer は互いに引き金を引いたとして

も,対話の再開に向けて頭を冷やすために

十分な沈黙が我々を暖かく待ってくれる.

兵器を互いに所持することで抑止力を働かせ

平和を構築する時代は過去のものである.

多様化と対話の時代にあって我々人類は

「一方や双方が力を行使しても平和を導け

る能力」を兵器に求めていくべきなの

ではないだろうか.」

 

 ということで、是非実用化して欲しい

ものですが、うまくいかなかったんで

しょうか?