知財アナリストのひとりごと

特許情報分析・知財戦略をやさしく解説します

カイコの繭で、アンモニア消臭?それともUVカット?はたまた赤ちゃん用のエリナチュレ?

 朝日新聞に、東京農大、長島せんせ

(長島孝行教授)の記事が載っていま

した。

 

 ガの仲間のエリサン(ちなみに江利

チエミさんのことではありません)の

繭から取れるシルクで、赤ちゃんが

使える日焼け止めや、血糖値を下げる

ゼリー(こちらは、大人用ですね)、

紫外線カットの日傘、臭くならない

靴下など、いろんなものに使えると

いう技術を開発したと書いてあり

ました。

 

 ガの出すシルクは蛋白質でできて

いるため、体内で脂肪とくっつき、

体外に出してくれるので、血糖値を

下げてくれるそうで。

 

 アンモニア臭も消してくれるため、

靴下などに応用できるんだそうですね。

 

 この技術を応用して、シキボウさん

と「エリナチュレ」という機能繊維

素材を開発したそうで、この機能

素材は、以下のように2012年「キッズ

デザイン賞」にも選ばれています。

 

http://www.kidsdesignaward.jp/search/detail_120323a2

 

 エリサンというのは、ヤママユガ科の

蛾で、カイコガ科の家蚕やヤママユガ科の

天蚕など野蚕と同様に幼虫が繭を作る

絹糸昆虫で、通常のシルクと異なり、

エリサンの繭の繊維は、繊維を構成する

たんぱく質の内部にナノレベルのナノ

チューブ構造とナノフィラメント構造を

持ち、これが通常の家蚕にはない、ヤマ

マユガ科だけの特徴となっており、単

繊維内部がナノレベルの多孔構造となり、

通常のシルクを上回る紫外線遮蔽機能と

アンモニア消臭機能を持つと書かれて

います。

 

 ただし、単繊維繊度が細いため、

通常のシルクのように長繊維としての

使用が難しかったのですが、シキボウ

さんと長島せんせが、共同研究によって

エリサンの繭の繊維を綿と混紡する

ことでエリナチュレの実用化に成功した

そうで、実験でも綿100%を上回る

アンモニア消臭機能とUVカット機能、

軽量性を確認したそうですね。

 

 長島せんせのホームページも

ありますよ。

 

http://www.nodai.ac.jp/agri/original/kinoukaihatu/teacher/index.html

 

 長島せんせ、エリサンを含む、クリ

キュラ繭(やはり野蚕(やさん)だ

そうです)で2件特許を取得しています

ので、これを見てみましょう。

 

 この特許は、もともとは2007年に出願

された特開2008-138158「クリキュラ繭

色素及びその用途」というものを、審査で

いちゃもんつけられたために(というわけ

ではなくって、「抗酸化剤や栄養補助食品

に使うのなんて、みんな知ってるんだもん

ね」などという拒絶理由が通知されたわけ

でして)、分割して、めでたく、一つは、

特許5376486「クリキュラ繭由来のルテ

イン含有色素の製造方法」、もう一つは、

特許5565780「クリキュラ繭色素及び

その用途」として登録されたんです。

 

 最初の出願では、「クリキュラ繭から

抽出した抽出物に含まれる色素に眼病の

一要因である白内障に効果があると

されているルテインが多量に含まれて

おり、このことにより紫外線カット

効果があり、抗酸化作用があること、

さらにはこの色素が黄色の発色に優れて

いること、特にエリ蚕(ここでエリサンが

出てきます)、サク蚕、天蚕、タサール

蚕等の野蚕の繭からとった糸の染色性、

染色後の耐光堅牢度に優れていること

等を見出し、また、この色素は抽出条件を

選ぶことにより効率よく抽出される

ことを見出し、このような知見に基い

ている」ので、黄色色素や、黄色染料、

着色料、紫外線カット剤、抗酸化剤、

ルテイン含有栄養補助食品で、「登録

してちょーだい」とお願いしたのですが、

上のような進歩性違反の拒絶理由通知が

あったため、製造方法と、黄色色素、

黄色染料、着色料、紫外線カット剤

だけで権利を取得したんです。

 

 ちなみに、クリキュラというのは

黒紫色の小さな芋虫状の野蚕

(Criculatrifenestrata)で、インドネシア

では、毎年3月頃から大量に発生し、

その幼虫が街路樹等の葉を食い荒らす

ため現地では害虫とされているんですが、

これが蛾になるときに作り出す繭は、

その外観が美しい黄金色を呈するため、

日本でも「黄金繭」として注目され、

近年これを利用する各種の研究が行わ

れているんだそうですよ。