知財アナリストのひとりごと

特許情報分析・知財戦略をやさしく解説します

帝人さんのスコーロン(SCORON)

 今年は、暑くなりそうですね。

 

 もうすでに30℃以上の日もありますので、

ハエハエ蚊蚊蚊君も、「今年も頑張るぞ」と

ひそかに思っていることでしょう。

 

 まあ、ハエハエ蚊蚊蚊君には好都合な

夏でも、人間君にとっては迷惑なわけ

でして。

 

 まあ、この対策としては、私も以下の

ようにいろいろ取り上げているわけですが。

 

oukajinsugawa.hatenadiary.jp

 

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  WEBで「虫除け」などと打ち込むと、

キンチョールローション」とか、「ムヒ」、

「ムシペール」、「虫よけ衣類の売れ筋

ランキング」などというものも出てきます。

 

 ということで、「今日は、ハエハエカカカ、

キンチョールの話か?」ということなのですが、

キンチョーさんは、以下のようにこの前書き

ましたので、虫除けつながりの話です。

 

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 最近、帝人さんの、「スコーロン」という

名前の生地を使った衣服が売れているんだ

そうですね。

 

 これは、蚊などの害虫に刺されにくい生地

だそうで、2007年に売り出され、アウトドア用

衣服に使われていたそうですが、昨年の

デング熱国内感染が報じられて、問い合わせが

殺到し、今年の販売量は前年の約3倍で、

商談は10倍以上になっているそうです。

朝日新聞の受け売りです)

 

 この「スコーロン」は、アース製薬さんが

開発した防虫剤を、帝人さんが極細糸の

表面に接着させた生地だそうで、蚊などが

とまると、触覚や足先に虫が嫌がる成分が

伝わり、刺さずに逃げてしまうんだそうで、

20回洗濯で防虫効果が8割以上続くとの

ことです。

(こちらも、新聞の受け売りですので、

効能を保証するものではありませんが)

 

 6月10日のTBSのひるおびでは、この

朝日新聞の記事がそのまま紹介されて

いましたね。

 

 得意のプラピ(J-PlatPat)君で調べると、

「スコーロン」という商標は、帝人フロンティア

株式会社から5件登録されています。

 

 ということで、どんな特許出願なのか調べて

みることに致しましょう。

 

 ということで調べると、再表2005/018329

(WO2005/018329)「害虫行動撹乱誘発剤、

機能性繊維、機能性布帛類及び機能性繊維

製品」というPCT出願で、残念ながら、日本

では拒絶査定となっていました。

(海外は、EUやUSでの権利化はされて

おらず、権利化がされたのは、中国と韓国

だけのようです)

 

 出願は。アース製薬株式会社、帝人ネス

テックス株式会社での共願となっており、

内容は以下のようになります。

 

【要約】

本発明は、蒸気圧が10-3Pa(25℃)

オーダー以下である有機エステル系

化合物を、害虫の行動錯乱作用を誘発

する有効成分として含有する害虫行動

撹乱誘発剤、前記害虫行動撹乱誘発剤を

保持させた機能性繊維及び機能性布帛類、

並びに前記機能性繊維または機能性

布帛類からなる機能性繊維製品であり、

適用箇所に長期にわたり優れた害虫行動

錯乱誘発効果を付与できる、とのことです。

 

 背景技術という項目を見ると、「自然回帰

ブームからアウトドア生活に人気があり、

それに伴って害虫対策が注目を浴びて

きており、無農薬農産物への志向も高く、

除草作業をはじめとして農地での作業時間

も長くなっており、農業分野でも害虫対策

への注目が高まってきている」ということで、

当初の目的は、アウトドアでの作業用衣服

などをターゲットにしていましたが、上記の

ようにデング熱への関心の高まりなどから、

通常衣服への使用に注目が集まったので

しょう。

 

 このように、当初の目的ではなくて、違った

目的に注目が集まり、売れ行きが好調という

例はいくつもありますね。

 

 当時はまだデング熱への関心は薄かった

ようで、「最近では蚊を媒介して致死の可能性

がある西ナイルウイルスに感染することも危惧

されており」と書かれています。

(まあ、デング熱も、西ナイルウィルスも、

親戚っていっちゃあ、御親戚なわけでして)

 

 それでは、実際どんなふうにしているのかを

実施例などで見てみると、害虫行動撹乱誘発剤は

3-フェノキシルベンジル(1R)-シス/トランス-

クリサンテメート、多価アルコール脂肪酸エステル、

ポリオキシエチレン系エーテル類などを混合する

そうで、これに 繊維を浸漬し、乾燥する方法が

簡便で、効果的なんです。

 

 界面活性剤は、ノニオン系が好ましいそうで、

さらには、太陽光による劣化を防止するために、

紫外線吸収剤を添加してもいーんです。

 

 繊維には制限がないそうで、ポリウレタン、

ナイロン、ポリエステル、セルロース等の繊維に

使えるそうですよ。

 

 行動錯乱試験というのも記載されて

いますので、覗いてみると、まずは、害虫行動

撹乱誘発剤をポリエステル系繊維に3g/m2

含浸させ、このポリエステル系繊維を用いて

腕カバーを作製したんだそうです。

 

 その後、この腕カバーを装着した腕をヒト

スジシマカ25匹を放ったケージ内に挿入し、

腕カバーに飛来するヒトスジシマカの数を

1分間毎に計数し、その割合(飛来率)を

求めました。(腕を入れた研究者の方は

かゆそ~~~)

 

 さらに、10分経過後に、刺咬したヒトスジ

シマカの数を計数し、その割合(刺咬率)を

求めたんです。

 

 比較が必要ですので、、害虫行動撹乱

誘発剤で処理していない同一のポリエステル

系繊維を用いて腕カバーを作製し、同様の

試験を行っています。

(こちらの腕のほうがかゆかったでしょう)

 

 結果としては、、害虫行動撹乱誘発剤で

処理しない腕カバーでは、ヒトスジシマカ

飛来数が時間の経過とともに増加する傾向

にあり、全体の3/4以上が刺咬していましたが、

これに対し、発明品のほうは、、ヒトスジ

シマカの飛来数が少なく、刺咬したヒト

スジシマカはゼロだったんだそうです。

 

 データを見ると、発明品のほうは、時間と

共に、飛来率が激減していることから、

飛来数を減少させる効果も期待できると

なっていました。

(データは、1分後での飛来率は、発明品が

29%、発明品でないほうは43%、10分後では、

発明品4%、発明品でないほうは70%と

なっています)

 

 洗濯後の吸血阻止率というのも出ていて、

3種類の溶液で実験されていますが、

・害虫行動撹乱誘発剤 7重量%

水酸基含有アクリルバインダー 5重量%

・カルボジイミド基含有架橋剤 0.5重量%

・水87.5重量%

が一番よくて、50回洗濯後も100%の吸血

阻止率だそうですよ。

(吸血鬼も阻止してくれるんでしょうか?

 

 出願公開文献に書かれている内容なので、

私のほうで、この効能を保証するものでは

ありませんが、新聞記事では洗濯20回で

80%となっていましたので、最良の溶液で

加工できない理由があるのかもしれません)

 

 それでは、最後に、このような防虫剤と

いうか、虫忌避剤を研究開発している企業を

調べてみましょう。

 

 簡単に調べるために、Fターム4H011

AC02(・・ゴキブリ、カ、ハエ用殺虫剤)、

AC06(・虫、ダニ用忌避剤)というのを

使ってみましょう。

 

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 上は、2005年からの出願で、出願公開

トップ5をプロットしていますが、住友化学

さんがトップなんですね。

 

 この前書いた、ハエハエカカカキンチョー

さんが2位で、ライオンさんも頑張っている

ようです。

 

 それでは、繊維に応用しているのはどのような

企業なのかを、出願年は特定せず、D6Mという

「繊維,より糸,糸,織物,羽毛またはこのような

材料から製造された繊維製品のクラスD06の

他に分類されない処理」というIPCで、掛け合わ

せてみると、数は少ないものの、以下のように

なりました。

 

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 やはり繊維メーカーさんでは同じような

研究をおこなっているんですね。

東洋紡さんは、先日、「ひねってポイ」の

話題を取り上げたばかりですが、いろんな

ことをやっていますね)