知財アナリストのひとりごと

特許情報分析・知財戦略をやさしく解説します

ネモトさんと、特殊な根本さん

「ネモトさんって何だよー? 何言いてー

んだか、さっぱりわかんねーじゃねーか」

というところですが。

 

 いきなりですが、蛍光体って、昔のブラウン管

テレビの時代には、蛍光体を塗って電子ビームで

叩いて可視光を出すために、蛍光体が大量に

使われていましたが、最近一番多いのは何用

なんでしょうかね?

 

 やっぱりLED用なんでしょうか?

 

 昔は、ブラウン管用蛍光体日亜化学工業

さんが有名でしたが、今ではLEDメーカー

さんですもんね。

 

 蛍光体の開発は今でもいろいろ進められて

いて、「発明の名称」に、単純に「蛍光体」と

入れて、2010年からの出願を調べてみても

出願公開が790件もヒットしてきました。

 

 蛍光体を研究開発しているメーカーさんも

非常に多く、三菱化学東芝、パナ、住友金

属鉱山、電気化学工業、シャープ、物質・材料

研究機構、東北大学信越化学、日亜化学

などの順番となってきます。

 

 ということなのですが、実は、ネモトさんも

蛍光体メーカーさんなわけでして、ネモトさん

の正式名称は、「根本特殊化学株式会社」、

本社は東京杉並、創業1941年、資本金

9,900万円、時計や計器等の夜光塗料の

開発から発展してきた企業です。

 

https://www.nemoto.co.jp/index_j.html

 

 現在は分社化して、根本さんのほかに、

ネモト・ルミマテリアルさんと、ネモト・

センサエンジニアリングさんなどもありますよ。

 

 この根本さん、何が特殊なのかというと、

時計の文字盤や針に使用されている夜光

塗料が、世界シェアの8割を占めており、

ライセンス生産なども含めると、シェアが

ほぼ100%なんですって。

 

 特殊でしょう?

 

 この夜光塗料は、時計だけでなく、非常口

誘導標識、リモコンキーパッド、航空機内

誘導標識などにも使われており、ほかにも

火事で停電しても、放水ホースがわかる

ように消防車の放水ホースに使われて

いたり、ペンタゴンの避難誘導標識、

さらには、塗料は同じではないですが、

偽造防止のために米国の100ドル紙幣に

根本さんの塗料が使われていたり、その

ほかの有価証券偽造防止にも使われて

いるんです。

 

 特殊でしょう? (しつこいですね)

 

 根本さんは、最初は、戦時中の暗闇

で、軍事用や民間用で夜光塗料が必要に

なるだろうということで事業を開始した

わけですが、そのうち蛍光を発するのに

放射性の夜光塗料は危ないよねという

ことで、放射性がなく、しかも残光時間が

長い、蓄光蛍光体を1993年に開発した

んです。

 

 この商品名は、「N夜光(ルミノーバ)」と

いうものなのですが、1996年に、これに

より大河内記念技術賞、1997年には

電気化学技術賞の棚橋賞を受賞して

いるそうで、「N夜光」や、「ルミノーバ」

などはいろいろ商標登録されています

ので、夜光塗料だけでなく、夜行性

キーホルダーや、おもちゃ、人形などに

使うと怒られますよ。

 

 この根本さん、海外展開も積極的で、

オランダ、スイス、中国、韓国などに

販売会社や工場があるんです。

 

 根本さんは、以下のように、中小

企業庁の、「元気なモノづくり中小企業

300社」というのにも取り上げられて

います。

 

http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/sapoin/monozukuri300sha/3kantou/13tokyo_21.html

 

 ということで、特許を調べてみましょう

かね。

 

 一番最初の基本特許は、出願が1994年

1月21日、特許2543825だと思いますが、

発明の名称が「蓄光蛍光体」で、被引用

回数が102回!!と「いーい仕事」を

していましたが、御存じのように特許権

出願から20年ですので、昨年、惜しまれ

つつ??、権利が満了しています。

 

 ただし、そのほかにも蓄光蛍光体」で

いろいろ権利化しており、脇を固めている

のでしょう。

 

 出願状況を見ると、かなりの数でPCT

出願がされており、海外対策も、おさおさ

怠りないようですね。

 

 ということで、この基本特許の要約を

ちょっと覗いてみると、

 

【目的】長時間の残光特性を有し、化学的にも

安定であり、かつ長期にわたる耐光性に優れる。

【構成】MAl2 O4 で表わされる化合物で、

Mは、カルシウム、ストロンチウムバリウム

からなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の

金属元素からなる化合物を母結晶にした。

Mにマグネシウムを添加できる。付活剤として

ユウロピウムを添加できる。共付活剤を

添加することもできる。

 

 となっていて、残光時間を長くする賦活剤と

して、請求の範囲でジスプロシウムが指定

されています。

 

 そのほかにどんな出願があるか見てみると、

特開2010-106213(真贋判定用蛍光体および

真贋判定手段)、特開2014-037540(真贋判定

蛍光体)などもありますよ。

 

 これは、先ほど書いた、有価証券などの

偽造防止に使用されるもので、

 

有価証券、紙幣、プリペイドカード、IDカード、

クレジットカード等の偽造防止や、ブランド品の

偽造防止のために、偽造されたものであるか

否かを判定する方法が知られている。その一つ

として、例えばマーク等を肉眼では観察できない

蛍光体含有インクにより印刷して潜像マークを

形成し、その潜像マークに紫外線を照射して

蛍光体を励起し、蛍光を発光する蛍光体

用いられている。

この方式によれば、真贋判定のための

潜像マークは肉眼で見えにくいために、

偽造者はこの潜像マークを印刷することが

困難であり、偽造あるいは変造されたカード

や物品を確実に発見できる。

 

 ということなので、 この発明者らは、

ブラックライトのような365nm付近の

紫外線では実質上励起されず、かつ

UV-Cの波長領域の紫外線を励起

光源として用いない蛍光体を種々探索、

検討した。その結果、UV-Bの波長

領域、特に少なくとも290nmから

310nmの波長領域の紫外線により

励起され、かつブラックライトのような

365nm付近の紫外線では実質上

励起されない蛍光体として、3価の

プラセオジム(Pr3+)付活の希土類

酸硫化物系蛍光体を見出したんだ

そうです。

 

 ネモトさん、いーい仕事してますね。