知財アナリストのひとりごと

特許情報分析・知財戦略をやさしく解説します

遠山の金さんシリーズ第3弾  アビガンその4

 前回の用途発明の続きです。

 

 むかーし、むかしあるところに、おじーさんと

おばーさんがおったそうな。

 

 この前、おばーさんが鳥インフルで苦しんだ

ので、富山の薬種問屋に奉公している若い娘が

これを聞きつけて、薬を混ぜ合わせてインフルに

よく効く薬を作りだしたそうな。

(若いかどうか知りませんが)

 

 ということで、前の物語は以下を見てください。

 


鳥インフル現代昔話 - 知財アナリストのひとりごと

 

 薬種問屋は、「うちが作り出したんだから、

インフル用として独占的に販売させて欲しい

もんだ」、と考えて、お上に、「特別にインフル薬と

して、独占的に売り出すことを許していただけ

ないでしょうか。」と、願い出たそうな。

 

 そうしたところ、お上から、「あいわかった。

害がない範囲で特別に販売を許してしんぜ

よー。」と許可がおりたそうな。

 

 これを聞いた悪ーい王花陣は、性懲りも

なく、「へっへっへっ。しめしめ、富山の

薬種問屋はインフル薬としか願い出ていない

ようだな。 ちまたの話では、熱がでてずぼら

になってしまう、ずぼら熱にも効くとの

もっぱらの噂なので、これを願い出てぼろもうけ

だぜぃ。」と画策したそうな。

 

 そうして、お上に、「ずぼら熱にも使えるので、

ずぼら熱用に独占的に売り出させてくだせー」と

願いでたそうな。

 

 そうしたところ、御裁きの間にいたお役人は、

急にもろ肌を脱いで、「おうーおうーおうーおうー、

王花陣よー、もう、ずぼらな人間に使えるのは

お見通しなんでぃー。 天下のお天道様が

見逃しても、この桜吹雪は見逃さねえんでぃー。」

と言ったので、王花陣はやっと金さんだったのに

気が付いたそうな。

 

 ということで、すでに、アビガン錠がエボラ

出血熱にも効果があるのではないかという話に

なっていますので、これから同じ物質でエボラ

熱用用途発明として出願しても、新規性か進歩性

なしとして、拒絶となる可能性が非常に高いで

しょう。

 

 それでは、この話が広まる前に、他の誰かが

エボラ熱用の用途発明として出願していたら

どうでしょう?

 

 この場合には、富山化学さんは、用途として

インフル効果しか挙げていませんでしたので、

他の出願は、他の用途発明として登録査定と

なる可能性が高いかもしれません。

(書き方の問題があるし、インフルといっても

ウイルスに効くのは同じなのだから進歩性は

ないよね、と言われるかもしれませんので、

一概にそうとも言えず、ここの判断は結構

難しいです)

 

 それでは、登録はできなくても、他社は、

この物質を材料として、エボラ熱対策用

錠剤を製造できるのでしょうか?

 

 富山化学工業さんの権利範囲は、用途と

してインフル効果しか書かれていないので、

エボラ熱への権利は及ばないはずです。

 

 ということで、すべての請求項において

インフルで限定してしまっている物質のため、

この限定に縛られない用途で製造する場合

には、権利は及ばない可能性が高いでしょう。

 

 なぜならば、他の用途に対しても権利

範囲が及ぶとすれば、限定した権利を拡張

し、インフル薬として限定していない物質にも

権利があるとなってしまうからです。

 

 これを回避するためには、物質の特許として、

「~~である物質」、という請求項を入れて

おく必要がありますが、ありませんね。

 

 弱りましたね。

 

 ということでまとめると、同じ物質で新たに

エボラ熱用の用途発明を取得することは、

富山化学工業さんも、他社においてもむずか

しいのではないか。

(同じ物質の場合です)

 

 さらに、他の企業が、同じ物質をエボラ熱用

に製造することはできるのではないか。

 

 ということは、他社がエボラ熱用錠剤と

して同じ物質を製造しても、用途発明と

しては、富山化学工業さんは、「やめろー」

などと言うことはできないのではないか、

ということになります。

 

 (エボラ熱用として製造する場合にも、

薬事承認を受ける必要があることはいう

までもありません)

 

 またまた弱りましたね。

 

 ということで、少し調べてみました。

 

 すると、富山化学工業さんから、すでに、

発明の名称「新規なピラジン誘導体または

その塩、それらを含有する医薬組成物並びに

それらの製造中間体」という物質特許が

登録されていました。

 

 日本特許は4398631となりますが、これで

しょうかね。

(少し化学式が違っているのでよくわかりま

せん)

 

 優先日が2000年3月で、中国などいろいろな

ところで権利取得がされています。

 

 中国が特許権を侵害している可能性があり、

富士フイルムが調査を始めているという記事

と、2006年に中国で有効成分に関する特許を

取得しているという記事が出ていますので、

この特許の事を言っているのかもしれません。

(中国特許はCN1239511で2006年登録です。

日本での権利はH24年で消滅していましたが、

中国では消滅していないのでしょうか?) 

 

 もし、物質特許を持っているのなら、

富山化学工業さんは、まずは一番の出発点の

物質の権利を持っていますので、用途発明

云々以前に、「製造すんのやめろやめろー」

ということができることになります。

 

 ということで、用途発明についてまとめて

みましょう。

 

 用途発明は、他の用途で出願すれば、権利を

取得することが可能です。

 

 したがって、これを阻止するには、用途

以前のその物質(物の発明)でも権利を

取得しておく必要があるということに

なります。

 

 今回は中国での製造物質がどのような

物質かわかりませんので、成り行きに

注目していくことにいたしましょう。