知財アナリストのひとりごと

特許情報分析・知財戦略をやさしく解説します

用途発明、致しましょ。。。。 アビガンその3

 「致しません!!」というのは、ドクターXの

決め台詞ですね。

 

 用途発明ってなーんだ?というところですが。

 

 この前、「アビガン その2」でアビガン特許を

調べてみました。

 


アビガン その2 富山化学工業(株)アビガン特許出願分析 - 知財アナリストのひとりごと

 

 アビガンというのは登録商標だったんですね。

 

 富山化学工業さんを除くほかの人が、

アビガンというのを薬の名前につけると

怒られます。

(海外の商標登録を調べていないので海外

ではわかりませんが、日本では確実に

怒られてしまいます)

 

 翻って、アビガン錠をエボラ熱出血用として

他の会社が製造したら他の会社は怒られて

しまうんでしょうか?

 

 「何言ってんだ、特許登録されてんだろ!!

怒られんの決まってんじゃねーか!!」という

ことなのですが、ざーんねーんでーした。

 

 ちょっと違うんですね。

 

 「ちょっとだけよ!!」という、加トちゃん

けんちゃん状態なんです。

 

 これを説明するには、ながーながーい

説明が必要なんです。

(私の説明はそんな深い意味は、またまた

ないのですが)

 

 これを説明するには、アビガン特許をよく

見てみる必要があります。

(アビガンについては、「阿鼻叫喚」などと、

ウィットにとんだブログもあって、皆さん、

うまいことを書いているなと感心して

しまうのですが)

 

 話を戻して、この特許をよく見てみましょう。

 

 まずは、登録特許の権利範囲ですが、

権利範囲は、請求の範囲というところで

判断されます。

 

 明細書には、実施例とかいろいろ書いて

あるのですが、権利範囲は「請求項」です。

(ちょっと荒っぽい書き方なので同業の

弁理士の方々がこれを読んでいたら、

お前、ちゃんと書けよなと怒られてしまうと

思いますが、まあ、許してもらうとして)

 

 ということで、権利範囲は「請求項」に

書かれているものなので、「請求項」に

どのように書かれているのか見てみま

しょう。

 

 まず「特許請求の範囲」の請求項の1

ですが、

化学物質の一般式が書かれており、

「式中、R1は、水素原子を;R2は、フッ素

原子を;R3は、水素原子を示す。」で表さ

れるピラジン誘導体またはその塩ならびに

オセルタミビル、ザナミビル、ペラミビルお

よびCS-8958から選ばれる一種以上の

ノイラミニダーゼ阻害剤を含有する、インフル

エンザウイルス感染症を治療または予防

するための医薬組成物。

 

 となっています。

 

 まあ、ここのところだけ読んで、「ふむふむ」

とわかる人がいたら、その道のプロか、

大天才でしょう。

 

 私は、さっぱりわかりません、です、はい。

 

 といっても、わからないなりに頭をひねって

ひねり出すと、以下のようになるのでは

ないかと思います。

 

 ノイラミニダーゼ阻害剤とは、一種の抗ウイルス

剤の総称ですが、この抗ウイルス剤としてオセル

タミビル(あのタミフルですね)などを少なくとも

一種以上含み、ピラジン誘導体やその塩も

含んだインフル薬、なんですね。

 

 ふーん、そーだったのかー。

(最近、秘密の県民ショーのマネばかり

ですね)

 

 ただし、問題なのは、ここで、「インフル

エンザウイルス感染症を治療または予防

するための医薬組成物」と限定してしまって

いるんです。

 

 こういうのを、発明では、用途発明って

いいます。

 

 用途発明という言葉は、特許法には出て

来ないのですが、特許法の逐条解説(青本

ですね)というところの32条の趣旨説明で

1回だけ出てきます。

 

 残念ながら、こちらのほうも用途発明とは

なんぞや?という説明がありませんので、

偉ーい大先生、吉藤先生と、中山先生が

どのような定義づけをしているのか見て

みましょう。

 

 そうすると、ありました、ありました。

(特許法の審査基準にも定義されていますが)

 

 吉藤先生は、発明と発見の違いという

ところで用途発明を取り上げており、

用途発明というのは、「物の特定の性質

(属性)を発見し、この性質を専ら利用する

物の発明をいうとなっています。

 

 すなわち、DDTという物がすでにあっても、

殺虫効果を見出していなかったときに、

殺虫効果があることを見出して、「DDT

有効成分とする殺虫剤」や「DDTを虫にふり

かけて殺虫する方法」という発明は、用途

発明となるんですね。

DDTの用途発明特許は、用途発明の

嚆矢と言われており、明細書は以下に

なります)

 

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 話は違いますが、グルタミン酸による味の

素の特許は明治時代ですが、グルタミン酸

という単なる発見なのか、それとも、調味料と

いう新規な発明なのか、昔の大審院という

ところまで、もめにもめました。

 

 下は、味の素の明細書です。

 

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 ということで、話を戻して中山大先生がどの

ように用途発明を説明しているかというと、

こちらは、進歩性というところで、定義は

上記の吉藤先生と同じようなもので、見つけ

出しただけでは、単なる発見で、一定の用途に

利用するという点において発明性があると

いっています。

 

 まあ、それはさておき、ある物質の用途を

発見して出願すると用途発明になるのですが、

最初の疑問に立ち戻って、富山化学工業さん

の請求項7つ全部を見ても、エボラウイルス

効果があるなどと一つも書いてありません。

 

 ということは、他の会社がエボラウイルス用と

して製造してもいーんでしょうか?

 

 はたまた、他の会社がエボラウイルス用として

出願すれば、用途発明として認められて

しまうんでしょうか?

 

 ということで、長くなってしまったので、次回へ

続く。